小動物の診療

ハムスター

●知っておきたいこと

寿命 ジャンガリアン1.5~2.0年 ゴールデン2.5~3.0年くらい
※文献的にはジャンガリアン1.5年 ゴールデン2.5年との記載が多いが、経験的にはもう少し長生きと思われジャンガリアン2年 ゴールデン3年くらいかと個人的には考えています
行動 夜行性 夕方くらいから起きだして行動する。あまり寝ている時間帯に無理に起こすとストレスになります また、体が十分に隠れるくらいのチップなどは必須です
前歯である切歯は一生涯、延び続ける
近眼?、壁づたいに歩くことが多い
性格 ハムスターは性別により性格がかなり違います。雄は温和、雌は攻撃的な場合が多いです。特に雌は妊娠中、出産後は攻撃的な面が顕著になるので雄とは別に飼育して下さい
消化器 嘔吐できない。胃は前胃、後胃の複胃である
運動 野生のハムスターは夜にかなりの距離を歩くようです。運動のために回し車は必要でしょう
臭腺 ゴールデンは両脇腹、ジャンガリアンは腹部臍部に1個あります
尿 1日の尿量は少ない。きれい好き。排尿する場所を自分で決めることが多い  
市販の固形ペレットを中心に野菜、果物も
交尾 交尾後、雌は雄を邪魔にして攻撃する
妊娠期間 ゴールデンハムスター 15-18日間、ドワーフ種 18-20日間、なお親は直ぐに妊娠可能
※出産後は、飼い主が子ハムスターを何回も見ると本能的に危険を察知して頬袋に入れ、時には食べてしまう。暫らくは、干渉しないのがベスト。離乳は約3週間
性周期 約4日ぐらい。排卵直後は白い膣分泌物を出す事もある
胎盤徴候 雌では受精後8日頃から出血が起き、約1週間見られます。これは異常所見ではないので通常は治療しません。雄と一緒にした時期が問診されます
子ハムスター 生後45日で自立し、喧嘩を始めるので別に飼育する必要がある。
日光浴 特に必要ないが、昼間はある程度は明るい場所に飼育箱を置く(ハムスターは寝ているが24時間暗い場所は良くなく性ホルモン異常が起こるので)
飼育 巣箱は、尿で汚れた場所は毎日交換、1週間に1回は全て交換する
ひまわり 脂肪分が多いので1日2~3個くらい、肥満の原因
温度 18℃~26℃くらい

●飼育上の一般的な注意点

◎ハムスターは夜行性で土の中にもぐって生活する動物です。昼は直射日光が当たらない明るく静かな場所、夜は暗い場所に置いてください。また、飼育は水槽用のケージにチップを約10cmぐらい敷きつめて下さい。冬場の偽冬眠の防止にもなります。  
※1日中暗い場所ではホルモンの調節機能に障害が生じると思われます。  
※午前中はハムスターは寝ている時間です。夕方~夜に一緒に、遊んであげて下さい。

◎ハムスターは気温が5℃以下で冬眠するそうです。 哺乳類の冬眠と違いげっ歯類では冬眠の時に自分の体温もかなり低下してしまいます。そして非常に体力も使い、場合によっては死亡します。よって、なるべく冬眠させないようにチップを敷いて飼育しましょう。
※冬には、一日の温度変化の激しい部屋での飼育で偽冬眠を起こすようです。冬場は室内で暖房は必要ありませんが、温度変化には注意しましょう。また、寝床には暖かいハムスター用の綿を入れましょう。その他、窓際にゲージを置くのも良くありません(冬場)。

◎ハムスターはペレットを主食にして水と少量の野菜、果物を与えて下さい。ヒマワリの種は1日に2~3個程度にして下さい。野菜は、キャベツ、カボチャ、白菜、トウモロコシ、ブロッコリーを好みます。与えてはいけないのは、アボカド、ネギです。果物は、リンゴ、キィウイなどを好みます。
※ひまわりの種の与えすぎは肥満の原因となります。

●ハムスターに多い病気

◎皮膚腫瘍

皮膚にしこりができてだんだんと大きくなり連れてこられます。ハムスターの年齢、健康状態、発症部位、腫瘍の大きさを考慮して手術になります。  

◎腹腔内腫瘤

腹腔内にしこり(腫瘤)が形成されるもの。診察の際の触診で発見される場合が多いです。腫瘤が腫瘍なのか?炎症、膿瘍なのか?なかなか触診だけでは判断できません。皮膚腫瘍と違って手術を行っても予後は悪いでしょう。

◎雌の子宮疾患

外陰部より分泌物がでるのが続いて連れてこられる場合が多いようです。原因としては子宮粘液腫、子宮癌、子宮水腫、子宮蓄膿症、子宮内膜炎、子宮壁の過形成、卵胞嚢腫などがあります。
※8メガのマイクロコンベックスプローブのある超音波(エコー)で腹腔内の子宮の大きさを検査します。
※ゴールデンハムスターでは内科的な治療で経過が変化ない場合は手術になります。(但し子宮癌では予後は良くありません。)ジャンガリアンでは開腹手術は予後悪く最近はあまりしません。
※ハムスターの性周期は約4日です。排卵直後に少しの膣分泌が出るのは正常なので鑑別は重要です。

◎皮膚病

いろいろな皮膚病がありますが、太りすぎ、ヒマワリの与えすぎなどによる脂漏症が多いようです。
※ハムスターではニキビダニ(毛包虫)は常在しています。皮膚病がひどくなると二次的にニキビダニは増えて皮膚病をより悪化させます。

◎前肢(または後肢)の内側の皮膚炎

太りすぎのハムスターまたは、太りすぎのハムスターが急激に痩せた場合に四肢の内側にたるみが生じて皺になり細菌が増えて皮膚疾患が起きるもの。ハムスターがその部位を気にするとその部位の皮膚は肥厚して慢性皮膚炎に移行する。

◎疥癬(ダニ)

稀ですが、ハムスターにもダニ(ヒゼンダニ)の寄生があります。CCDカメラで耳内を検査したりして発見されることが多いようです。また、犬猫のダニよりもダニは大きいので飼い主が発見して来院することもあります。
※ハムスターショウセンコウヒゼンダニは耳、尾、四肢に広がり強い痒みをもらたします。

また、皮膚にダニが寄生する場合もあります。皮膚のダニは赤い色のダニです。
治療は週に2回の内服を約1ヶ月間で完治します。

◎外傷

ハムスター同士の喧嘩は非常に多いです。一度でも喧嘩と思われる外傷があったら別々に飼育した方が良いかもしれません。ひどい場合は、生死にかかわる場合もあります。
※ハムスターは性別で性格がぜんぜん違う動物です。雄よりも雌は気性が激しい場合が多いようです。ほとんどの場合、雄が外傷で来院します。

◎下痢

犬猫と違いハムスターでは下痢が続くと命にかかわる事が多いのでなるべく早めに連れてきて下さい。
※特に若いハムスターでは下痢だけでも重症になります。  
※下痢が続くと直腸脱、重積脱を起こすこともあります。

◎消化管内寄生虫

ハムスターでは、トリコモナス、ジアルジア、蟯虫、小型条虫(別名ナナ条虫)、縮小条虫などが多いようです。
肛門付近で虫を発見したり、慢性下痢で来院して検便で虫卵や原虫を検出する場合が多いです。  
※ハムスター購入後には検便をして下さい。

◎腸トリコモナス症

ハムスターでは時と消化管内にトリコモナス原虫がいます。下痢を起こしてトリコモナス原虫が多数いる場合は駆虫薬の投薬が必要になります。
※但し、犬猫の治療と違いハムスターではトリコモナスの駆虫はまず困難でしょう。完全に駆虫するというより下痢を起こさないようにトリコモナス原虫を少なくするようにする治療が必要になります。  
※トリコモナス原虫は排便で外にでるとすぐに数分で死んでしまうので自宅でした便を検査しても無意味です。

◎直腸脱/重積脱

慢性の下痢が続くと直腸が反転して肛門から出てしまうものです。ハムスターでは直腸だけの脱出は少なく何センチにもわたって腸が反転している重積脱がほとんどです。 お腹の中の腸が重積を起こした重積脱の場合は非常に予後は悪いです。
※全身麻酔処置による整復が必要になります。
※脱出した腸は時間の経過とともに循環不全→壊死を起こします。治療までの時間が非常に重要です。
※手術の方法もありますが非常に予後は悪いです。(元気がない場合は体力的に無理)  
※この疾患では慢性の下痢が続きその結果として病気が起きるので、トリコモナス原虫が多数ケースが多いようです。

◎子宮脱

稀ですが雌では出産後に子宮脱もあります。状態が良ければ重積脱と違って手術で完治します。

◎消化管内異物による腸閉塞

症状としては便がでない。食欲が減退など。ハムスターはウサギ同様に嘔吐ができません。レントゲンなどで確認しますが、敷いてある毛布などの羽毛などの繊維と食事が混ざり閉塞物になっていることが多いです。  
※ハムスターの胃は前胃、後胃と2つあります。盲腸は非常に大きい面積を占めます。

◎頬袋の脱出

頬袋が口から出てしまうものです。綿棒で整復してもすぐに再び出てしまうことが多いようです。
※頬袋の縫合固定が必要になります。  
※脱出した頬袋が腫脹した症例、壊死を起こした症例、脱出を繰り返す症例では全身麻酔下でレーザーメスで頬袋の切除手術が必要になります。(しばらくして頬袋は再生します)

◎後肢の骨折

足がでる回し車や金網タイプのゲージに足を引っ掛けて骨折してしまうのがほとんどのようです。 骨折の部位、骨折のタイプにより予後が多きく異なりますのでなるべくレントゲン検査をするようにして下さい。

◎全身打撲

家の中に自由にさせてハムスターがカーテンを上り落下して連れて来られる場合が多いようです。

◎眼瞼炎

目の上下の瞼の部位(マイボーム腺)の炎症は大きさにより内科的治療、外科的な治療が必要になります。
※ハムスターのマイボーム腺は大きいため分泌物が貯留すると腫れやすい。

◎眼球突出

眼球が眼瞼より出てしまい、押しこんでも眼球の下の組織が腫脹していて眼球が元の位置に戻らないものです。
※球後膿瘍、白内障、眼内出血から二次的に起きる場合もある。   
※麻酔下にて処置が必要になります。
※眼下の腫瘍の場合は予後は悪いです。その他の場合は比較的良くなります。  
※眼球が脱出している時間が長いと目の表面の角膜が乾燥してしまいます。なるべく早めに連れてきて下さい。

◎不正咬合

ウサギ同様にハムスターも生涯にわたり歯はのび続けます。原因としてはゲージの噛癖や落下などにより歯の角度が曲がってしまったものが多いようです。
※ハムスターでは切歯(前歯)のみが常生歯で生涯にわたり延び続けます。

◎偽冬眠死

ハムスターは通常、冬眠することはありません。気温が低下すると体の体温が低下して偽冬眠を起こします。
冬にはチップを十分に敷いて飼育しないと寒さのために偽冬眠状態から低体温になり死亡してしまうものです。
※冬は特にチップを十分に敷いて飼育して下さい。
※冬には寝床にハムスター用の綿を入れて下さい。
※冬にはゲージを窓際には置かないで下さい。  
※冬には一日の温度変化が激しい部屋には置かないで下さい。

◎日射病

ハムスターには日光浴はあまり必要ありません。かえって日射病で死亡することがあります。夏以外でも20分も直射日光を当てるとよごれを流し、グッタリと危険な状態になります。  
※野外に出すときは日陰にして十分に注意しましょう。

◎心臓疾患

呼吸速拍、鼻を大きく膨らませながら呼吸するなどで連れて来られる場合が多いようです。

◎尿路結石症

膀胱内に細かい結石ができてしまい、これが尿道に詰まり排尿できなく急性腎不全から死亡してしまうもの。原因としては環境的な要因、遺伝的な要因があるように思えます。
環境的な原因としては、水を与えずに水分は野菜から与えているという誤った飼育方法があります。
犬猫のように排尿困難を飼い主が見極めるのが困難なため、また、急に発症して数日(2日ぐらい?)で死亡してしまうので、病院に来院した際には既に末期的なものが多いです。

◎白内障

高齢のハムスターでは水晶体が白濁して来院するケース、または診察時に発見されるケースがあります。病気自体が完全によくするのではなく進行を遅くするものなのでハムスターでは無治療が良いでしょう。

◎緑内障

稀ですが、ハムスターでも緑内障は起きます。だいたいは眼球が大きい(牛眼状態)で来院します。緑内障は内眼圧が亢進する病気です。眼球が大きい時点で視力の回復は望めません。また緑内障の治療薬は循環器に影響がありハムスターでは使用しない方が良いでしょう。